メタボからの脱出
1.人はなぜ太るの?
クマは餌をたらふく食べてエネルギーを脂肪として溜め込みメタボ状態で冬ごもりします。
人間にも同じ能力が備わっていますが、冬眠しないのにご馳走を食べ続け、作業にも移動にも文明の利器を使います。
こうして余分なエネルギーが内臓脂肪として蓄積されて太るのです。
内臓脂肪が増えると血糖値を調節するインスリンというホルモンのはたらきが鈍くなり、結果として過剰のインスリンが分泌されて高血圧、糖尿病、高脂血症などの病態がいくつも重なって起こるようになります。
これをメタボリックシンドロームと呼んでいます。
メタボを放置すると動脈硬化が進んで脳梗塞や心筋梗塞のリスクが増します。
2.食後血糖の急激な上昇を抑える!
メタボの原因は食べ過ぎと運動不足であり、対策としてカロリー制限と運動療法が行われてきましたが、実際にはなかなかうまくいきませんでした。
ダイエットはつらく、運動は長続きしないからです。
多くの研究と試行錯誤の結果、糖尿病と肥満対策のポイントが食後血糖値の急激な上昇をいかに防ぐかにあることがわかりました。
炭水化物を大量に摂取して血糖値が急激に上がるとすい臓からインスリンが大量に分泌されて血糖値をドンと下げ、このときに余分な糖質が体脂肪として蓄積されます。
一方、タンパク質や脂質を摂取するとインクレチンと総称される消化管ホルモンの分泌を促して血糖を下げる方向に働きます。
これを踏まえ、食後血糖値の急激な上昇を抑える対策として低インスリンダイエットと糖質制限ダイエット(以下ロカボ)が試みられています。
いずれもダイエットに伴う空腹感を和らげつつ食後血糖値を抑えることが目的です。
両者を解説する前に、血糖や中性脂肪を上昇させて糖尿病やメタボを助長する食生活の要因とその対策について確認しておきましょう。
問題となる食習慣 | メタボ助長の原因 | その対策 |
---|---|---|
朝飯を抜くことが多い | 昼、腹ペコガッツリで血糖急上昇 | 朝食を摂る |
食べる速度が速い | 吸収速度が速く血糖急上昇 | よく噛んで食べる |
間食、夜食の習慣 | 総カロリーアップ | 三度の食事以外は食べない |
夕食が遅い | 脂肪蓄積 | 就寝前2時間は食べない |
炭水化物が大好き | 糖質過多 | 夕食の炭水化物は控え目に |
甘いものに目がない | 糖質過多 | 甘いものを控える |
揚げ物がないと気が済まない | 総カロリーアップ | あぶら物は控える |
毎日、多めのアルコール! | 中性脂肪上昇 | 晩酌は適量、ツマミは少量 |
3.糖質の「質」を変える
メタボ対策が食後血糖の急激な上昇を防ぐことにある以上、どんな食品を食べてどのくらい食後血糖値が上がるのかを知っておく必要があります。
その目安がGI(グリセミック・インデックス)です。
GIは食品によって血糖値が上昇するスピードを表し、数値が高いほど血糖値が上昇しやすく、インスリンを多く消費して脂肪が蓄積されやすいと判断します。(下図参照)
表で分かるように、牛乳、卵、肉、豆腐、野菜などを食べていれば血糖値の上昇は最小限に抑えられますが、主食がないとエネルギー不足になり、栄養バランスも悪くなります。
そこで血糖値が少しでも上がりにくい主食を選びます。
たとえば、白米や餅より玄米や五穀米、食パンやフランスパンよりライ麦パンや全粒パン、うどんよりそばを選ぶなどの要領です。
GIは食物繊維、タンパク質、脂質などの含有量に影響されるからです。
これが低インスリンダイエットの基本的な考え方で、ダイエットの最大の難敵である空腹感を和らげつつ、食後血糖の急激な上昇を抑えてメタボや糖尿病を予防する効果があります。
応用編として、ご飯には納豆、とろろ、卵などをかける、おにぎりにはシャケやツナマヨを入れる、パンにはジャムよりもバターを塗る、牛乳やシチューに浸して食べる、シリアルは牛乳やプレーンヨーグルトをかけて食べる方がそのまま食べるより食後血糖を抑えられます。
注意すべきは果物に含まれる果糖で、GIは低いのですが体内で中性脂肪に変わるため食べ過ぎは禁物です。
4.セカンドミール効果の重要性について
セカンドミール効果とは、1回目の食事(ファーストミール)で低GI食品を食べると直後の血糖のみならず次の食事(セカンドミール)の食後血糖にも影響を与える現象を指しており、肥満やメタボの予防に対して多くのヒントを与えています。
まずは朝食の習慣を付けることが大切です。
朝食は多少カロリーが高くても構いません。
日常生活では昼食の選択肢が限られてしまうため、できるだけ低GIの朝食をとることで朝食後、昼食後の高血糖を抑えることがポイントです。
自宅で朝食をとる余裕がなければファストフードでもよく、食物繊維を意識してハンバーガーにはミネストローネやサイドサラダを添え、立ち食いそばにはワカメ、とろろ、大根おろしなどをトッピングしてください。
そばに卵や天ぷらを加えればタンパク質や脂質が増えるので食後の血糖値は上がりにくくなりセカンドミール効果も期待できますが、総カロリーが増えることを念頭に置いて活動量とのバランスをとる必要があります。
ファストフードも無理という人は、せめてバナナ1本と牛乳で割ったプロテインだけでもセカンドミール効果が期待できます。
まずは自分なりにトライし、1か月毎に腹囲や体重の変化で判断するといった個々の検証が必要でしょう。
5.糖質の「量」を変える
ロカボの意義とその実際
糖質を制限して血糖値が下がるとすい臓からグルカゴンというホルモンが分泌され、肝臓におけるグリコーゲンの分解と糖新生を促進させます。
糖新生には原料としてアミノ酸と脂肪が動員されるため体脂肪の分解が進みます。
つまり、肝臓には糖新生という機能が備わっているため、タンパク質と脂質を補えばロカボで脂肪燃焼が可能という理屈です。
糖質の制限量と効果について言えば、脂肪1kgが7200kcalですので、1か月で1kgの脂肪を燃焼させるための糖質制限量は、7200kcal÷30日=240kcal(ご飯約1膳分)と計算されます。
つまり、1日ご飯1膳減らせば1か月で約1kgの減量が可能で、最もシンプルな方法は活動量の減る夕食の主食をカットすることです。
一方、ロカボ推進派である北里研究所病院糖尿病センターの山田悟氏は、1日糖質量130g以下のロカボを推奨します。
イメージとしては3食の主食を半分に減らし、そのぶんオカズを増やしてタンパクと脂質を増量すれば空腹に悩むことなく糖尿病の改善が得られ、肥満対策にも有効という考え方です。
さらに高度なロカボとして1日糖質量を50g以下に抑えるアトキンスダイエットがありますが、ケトアシドーシスのリスクが否定できないためお勧めできません。
ロカボの問題点は?
日本人の1日平均糖質摂取量を約270gとすると1日糖質量130g以下のロカボでは大きなカロリー減になります。
これが続くと筋肉の痩せと栄養障害を起こすためエネルギーの不足分をタンパク質と脂質だけで補う必要がありますが、問題はそれが安全かどうかです。
日本糖尿病学会は、総エネルギー摂取量を制限せずに炭水化物のみを極端に制限することは長期の安全性が担保されず、現時点で推奨できないという見解を示しています。
直近の論文(別サイトへ移動)でも炭水化物の摂取量は多すぎても少なすぎても死亡リスクが増すというデータがあり、炭水化物のエネルギー比率は全エネルギーの50%を下回らないことが大切です。
日本伝統の「一汁三菜」を見直そう!
「一汁三菜」とは米飯とみそ汁に焼き魚などの動物性の主菜1品と冷奴やお浸しなどの植物性の副菜2品で日本人が慣れ親しんだ夕食です。
実は、日本食には糖尿病や肥満の治療食として世界で認められている地中海食やDASH食と多くの共通点があります。
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版(別サイトへ移動)」には、伝統的な日本食は肉や卵より魚や大豆製品が多く、雑穀や精白度の低い米、野菜、果物、海藻、緑茶を摂取することで食物繊維やビタミン、ミネラル類を充足していると明記されています。
「雑穀や精白度の低い米」は雑穀米や玄米、パン食なら玄米パンや全粒パンに相当し、いずれも低GIの主食です。
一方、外食などで低GIの主食が無理なときは白米をやや減らしておかずを増やすという手もあります。
たとえば、定食屋さんではご飯をやや軽めにし、代わりに納豆や卵を増やすといった要領で、いわば低GIと軽いロカボとの折衷案です。
食事療法の効果は個人の嗜好や体質にも影響されるため、まずは自分なりに試行錯誤して1~2か月後に腹囲や体重が減っているかどうかを確認することです。
6.タンパクと脂質摂取の注意点は?
ロカボの効果と問題点について述べましたが、ここで炭水化物以外の栄養摂取についての注意点を列挙します。
タンパク質については霜降り肉より赤身肉や鶏肉を、魚介類全般、特に青身魚を意識する、乳製品は低脂肪で大豆製品は毎日摂取すること。
但し糖尿病で腎機能障害を伴っている例ではタンパク制限が必要な場合がありますので必ず担当医に相談してください。
もちろん脂質の過剰摂取は控えるべきですが、近年「とにかく減らす」から「選んで積極的に摂る」へと考え方が変化しています。
まずトランス脂肪酸を含有するマーガリンやカップ麺などの加工食品と酸化した古い油の使用をなるべく避けること。
ドレッシングにはエゴマ油、シソ油などのオメガ3系を選ぶこと、加熱調理には酸化しにくいオリーブ油、キャノーラ油、米油などのオメガ9系を使うことがポイント。
また、クルミ、アーモンド、ピスタチオなどのナッツ類でオメガ3系、9系とビタミンEの補給を。
7.やっぱり運動が必要?
スポーツジムかジョギングか?
「低GIやロカボを試したが減量できるのは最初だけ」と感じた人も多いでしょう。
原因は恐らく活動量の低さと基礎代謝量の低下にあり、その解決策は運動療法にあります。
定期的な運動を続けて脂肪が燃焼されると、インスリンの効き目がよくなってメタボの改善が期待できます。
でも、月1回のゴルフや草野球では運動療法にはなりません。さて、どうしましょう?
週2~3回、スポーツジムで水泳と筋トレをすれば理想的です。
水泳などの有酸素運動と筋力トレーニングとの組み合わせは、脂肪を減らして筋肉量を増やすため、基礎代謝量が増加して脂肪がつきにくくなるからです。
とは言え、働き盛りの人には高いハードルでしょう。
でも、いきなりジョギングを始めるのはお勧めしません。
スポーツ経験者以外は足腰を痛めやすく、また心臓への負担も心配です。
目安として運動直後の脈拍が1分間に120を超えないこと、70歳以上の高齢者では100を超えないような運動強度が安全です。
「運動は苦手」という人もいますが、食事療法は運動療法と相まって初めて十分に発揮されると認識してください。
ウォーキングだけでは足りない?
毎日30~40分程度の速足ウォーキングは最も一般的な運動療法で、非常に多くの人が実践しています。
万歩計の場合、10分で1000歩になり、約40kcalを消費します。
でも、速足で30~40分歩いても消費エネルギーはせいぜい120~150kcalで、バナナ1.5本ぶんのカロリーでしかありません。
脂肪の燃焼を目指すのであれば食事と運動でそれぞれ120~150kcal減、計240~300kcal程度の消費が必要でしょう。
さらに、筋肉トレーニングが加われば基礎代謝量が上がって脂肪がつきにくくなります。
自分でできる筋トレのメニューとして、腕立て、腹筋、スクワットなどを1セット10回として3セット、週3回くらい行うと効果が上がりますが、ウォーキングと両立させるにはかなりの忍耐と努力が必要です。
人によっては、筋トレの代わりにキャッチボール、壁打ちテニス、サッカーやバレーボールのパス練習などを1回10~20分で週3回行うほうが続けやすいかもしれません。
でも、万歩計の歩数や筋トレの回数にあまりこだわるとストレスになります。
大事なことは、体脂肪の減少によって腹囲が減り、血圧や体調が改善してゆく様子を実感して楽しむことです。
「継続は力なり」です。
中には「やっぱり運動は苦手」という人もいるでしょう。
そんな人にはストレッチをお勧めします。
ストレッチは運動前後のアップやクールダウンを目的とした動作で、心拍数を上げて消費カロリーを増やす効果はありませんが、呼吸法と組み合わせることで新陳代謝を高め自律神経を安定させる効果が期待されます。
特に、ストレッチ、呼吸法、瞑想などの要素が含まれたヨーガは優れた健康法と言えます。
何でもトライしてみることです。